2018年、成人年齢が18歳になる法律が成立し、2022年4月からは、18歳で成人となります。
詳細は、以下のとおりです。
法務省:民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)について
平成30年6月13日,民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げること等を内容とする民法の一部を改正する法律が成立しました。
民法の定める成年年齢は,単独で契約を締結することができる年齢という意味と,親権に服することがなくなる年齢という意味を持つものですが,この年齢は,明治29年(1896年)に民法が制定されて以来,20歳と定められてきました。これは,明治9年の太政官布告を引き継いだものといわれています。
成年年齢の見直しは,明治9年の太政官布告以来,約140年ぶりであり,18歳,19歳の若者が自らの判断によって人生を選択することができる環境を整備するとともに,その積極的な社会参加を促し,社会を活力あるものにする意義を有するものと考えられます。
また,女性の婚姻開始年齢は16歳と定められており,18歳とされる男性の婚姻開始年齢と異なっていましたが,今回の改正では,女性の婚姻年齢を18歳に引き上げ,男女の婚姻開始年齢を統一することとしています。
このほか,年齢要件を定める他の法令についても,必要に応じて18歳に引き下げるなどの改正を行っています。
今回の改正は,平成34年4月1日から施行されます。
養育費の根拠
民法877条1項の、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある」という条文が扶養義務を定めた条文であるが、夫婦間や未成熟な子に対しては強い扶養義務である「生活保持義務」が課せられるというのが一般的な解釈となっています。
「生活保持義務」は、自らの生活と同程度の生活を保持する義務です。
「未成熟な子」というのは、実務上、一般的な場合、未成年者とほぼイコールだと解釈されてきました。
親同士が離婚して、一方が親権者でなくなっても、親であるということに変わりはないので、子に対する「扶養義務」=未成年の子に対しては「生活保持義務」を負うことに変わりはなく、そのため、未成年の子を育てる親とそうでない親との間で「養育費」の形で調整を行うということになります。そして、裁判所は、その養育費は、「成人まで(成年に達するまで)」あるいは「20歳まで」という定め方をすることが多かったものです。
成人年齢引き下げで養育費はどうなるか?
上に書いたように、民法が定めているのは「直系血族」の「相互扶養義務」であって、子どもが何歳になるまで監護親が非監護親に養育費を請求できるか、ということを直接定めていません。
これまでは、個々の子どもが20歳になると成熟するだろうと言えるかどうか詳しく見ずに、成人年齢だけで未成熟か否かの判断を一応してきたといえますが、成人年齢の引き下げにより、この判断基準が動くのかどうかが問題になります。
・「一般的に、成人になると成熟する」という前提を維持する?
この前提を維持するのであれば、養育費は18歳まで、となりやすくなります。
・「一般的に、成熟するのは20歳頃だ」という前提を維持する?
この前提を維持するのであれば、養育費は20歳まで、となりやすくなります。
また、すでに「成人まで」と決めた養育費がどうなるか(改正後の成人年齢に従うのかどうか?)の問題もあります。
理屈上は改正後の成人年齢に従って養育費の支払い終期を18歳までに統一する方法もありうるところですが、民法改正にあたっての議論やその他論調の傾向からすると、一般的な養育費の支払い終期を短くする解釈はとられないものとみられます。
以下、法務省民事局のウェブページに載っていることです。
法務省:成年年齢の引下げに伴う養育費の取決めへの影響について
平成30年10月4日
子の養育費について,「子が成年に達するまで養育費を支払う」との取決めがされていることがあります。
平成30年6月13日に民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げること等を内容とする民法の一部を改正する法律が成立したことに伴い,このような取決めがどうなるか心配になるかもしれませんが,取決めがされた時点では成年年齢が20歳であったことからしますと,成年年齢が引き下げられたとしても,従前どおり20歳まで養育費の支払義務を負うことになると考えられます。
また,養育費は,子が未成熟であって経済的に自立することを期待することができない場合に支払われるものなので,子が成年に達したとしても,経済的に未成熟である場合には,養育費を支払う義務を負うことになります。このため,成年年齢が引き下げられたからといって,養育費の支払期間が当然に「18歳に達するまで」ということになるわけではありません。
例えば,子が大学に進学している場合には,大学を卒業するまで養育費の支払義務を負うことも多いと考えられます。
なお,今後,新たに養育費に関する取決めをする場合には,「22歳に達した後の3月まで」といった形で,明確に支払期間の終期を定めることが望ましいと考えられます。
この文章は、既に決めた養育費が「成人まで」となっている場合には、20歳まで養育費の支払い義務があるだろうということを明言したものです。裁判所の解釈に委ねる姿勢はなく、立法意思として、ほぼこれで行きなさいというような感じです。
そして、後半部分ですが、成人年齢が引き下げられた以降の養育費の決め方について言及しながら、子が大学に進学している場合などは「成人後にも養育費は請求できる」ことを示唆しています。
最後には、改正後の成人年齢だけではなく、現在の成人年齢(裁判所が一般的に示す養育費の終期)を超える「22歳に達した後の3月まで」を養育費に関する取り決め例として挙げています。
この文章からは、「一般的に、成人になると成熟する」かどうかについて、当然のように否定で切り捨て、さらに、20歳というこれまでの養育費の終期の年齢を慣例のように残すのではなく、むしろ、大学に進学する場合には22歳まで養育費が発生するといった新しい基準に導く意図を感じます。
子が幼いころにこの子が大学に進学するかという話はそう簡単ではなく、これまでは、親の学歴などをもとに考え、双方が子を大学を出すのが当然だと考えたときに養育費を22歳までの設定していた多いのでしょうし、これまでは20歳から22歳までの養育費について議論されるのがやや特殊ケースといった風潮でした。
しかし、今後は、今回の成人年齢引き下げにより、「必ずしも20歳でなくてもいいのだ」という風潮と「子どもの多くは大学に行く時代であり、子どもは大学に行くことを希望している」くらいの根拠で、18歳から20歳だけではなく、20歳から22歳までの養育費に何らかの定めをするという傾向が進みそうな気がします。
また、既に決めた「成人まで」や「20歳まで」の養育費について見直しを求めたり、成人後に再度養育費を設定せよとの申立てが頻発しそうですし、養育費算定表で子が15歳になったら金額がアップすることなどにもっと目が向けられそうな予感がしています。
弁護士 山岸陽平